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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)8953号 判決 1985年10月29日

原告 松下保久

被告 日本電気株式会社

右代表者代表取締役 関本忠弘

右訴訟代理人弁護士 西迪雄

同 中村勲

同 富田美栄子

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告の昭和六〇年六月二八日に開催された第一四七期定時株主総会における第一四七期利益処分案を承認し、並びに定款第二条を変更し、並びに瀬古由郎、海東幸男、伊部恭之助、伊東祐弥、秋元和好、松笠功、福田厚、高田磐根、中尾英夫、柳井章、清田元、中沼尚及び金子尚志を取締役に、筒井栄次郎、新井正明及び小池明を監査役にそれぞれ選任し、並びに退任取締役及び退任監査役に退職慰労金を贈呈し、その金額等の決定は、退任取締役については取締役会に、退任監査役については監査役の協議にそれぞれ一任する旨の決議を取り消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、六月前から引き続き被告の三〇一単位の株式を有する株主である。すなわち、原告は、昭和五九年一一月一五日、被告の株式六万株を取得し、この時点で合計三〇万一三三六株、株式の単位にして三〇一単位の株式を所有する株主となった。

2. 被告は、昭和六〇年六月二八日に開催された第一四七期定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)において請求の趣旨1項記載の決議(以下「本件決議」という。)をした。

3. しかしながら、本件決議には次のような取消事由がある。

本件株主総会の招集の手続は商法二三二条ノ二の規定に違反する。すなわち、原告は、株主提案権を有する株主として被告の代表取締役に対し、会日の六週間前である昭和六〇年五月一四日及び一五日に書面(甲第三号証の一、二)をもって、定款第一一条及び第一二条変更の件並びに取締役小池明解任の件を本件株主総会の会議の目的とすべきこと及び右議案の要領を本件株主総会の招集の通知に記載することを請求したが、被告は、右事項を会議の目的とせず、かつ、右議案の要領を本件株主総会の招集の通知に記載しなかった。

4. よって、原告は、被告に対し、本件決議の取消しを求める。

二、請求原因に対する認否及び被告の主張

1. 請求原因1記載の事実中、原告が昭和五九年一一月一五日被告の株式六万株を取得し、この時点で合計三〇万一三三六株、株式の単位にして三〇一単位の株式を所有する株主となったことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、商法二三二条ノ二第一項所定の持株要件を充足していなかった。すなわち、六月間算定の起算日は請求の日(書面を提出した日)であり、この時からさかのぼって(逆算して)六月の期間を意味する。要するに、法定数の株式を取得した時と請求の時との間に六月の期間が存在しなければならない。ところで、原告が法定数の株式を取得したのは昭和五九年一一月一五日であるから、昭和六〇年五月一六日に至って初めて持株要件を充足することになるところ、原告が請求をした日は昭和六〇年五月一四日及び一五日であるから、原告は持株要件を充足していない。

2. 同2記載の事実は認める。

3. 同3記載の事実中、原告が被告の代表取締役に対し、会日の六週間前である昭和六〇年五月一四日及び一五日に書面をもって、定款第一一条及び第一二条変更の件並びに取締役小池明解任の件を本件株主総会の会議の目的とすべきこと及び右議案の要領を本件株主総会の招集の通知に記載することを請求したこと並びに被告が右事項を会議の目的とせず、かつ、右議案の要領を本件株主総会の招集の通知に記載しなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

4. 原告の提案のうち、定款の一部変更の件は具体的合理的な理由に基づくものではなく抽象的一般的な批判に基づくものであるから商法二三二条ノ二の趣旨に沿うものではないし、また、取締役解任の件は任期満了により退任する取締役に係るものであることからすると、原告の提案権行使は、提案権の濫用にわたるものである。

三、被告の主張に対する原告の反論

1. 原告は持株要件を充足している。すなわち、原告が三〇一単位の株式を取得したのは昭和五九年一一月一五日であり、株主提案権を行使したのは昭和六〇年五月一五日であるから、この間丁度六月の期間が存することが明らかである。

2. 株主総会の招集及び議長は社長がこれに当たるべきであるという理由は、提案理由中で述べたもののほか、会社の対外的行為は社長が行うのが筋であり、すっきりしているということに基づく。また、取締役小池明解任の件を会議の目的とすべきことを提案したのは、同人が引き続き取締役に再任されると考えていたからであり、同人が本件株主総会の終結の時をもって退任するとは知らなかったからである。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1記載の事実中、原告が昭和五九年一一月一五日被告の株式六万株を取得し、この時点で合計三〇万一三三六株、株式の単位にして三〇一単位の株式を所有する株主となったこと、同2記載の事実並びに同3記載の事実中、原告が被告の代表取締役に対し、会日の六週間前である昭和六〇年五月一四日及び一五日に書面をもって、定款第一一条及び第一二条変更の件並びに取締役小池明解任の件を本件株主総会の会議の目的とすべきこと及び右議案の要領を本件株主総会の招集の通知に記載することを請求したこと並びに被告が右事項を会議の目的とせず、かつ、右議案の要領を本件株主総会の招集の通知に記載しなかったことは、当事者間に争いがない。

ところで、六月の期間は、請求の日(書面を提出した日)から逆算して丸六月の期間を意味すると解すべきところ、右当事者間に争いのない事実によれば、原告が請求をした日は昭和六〇年五月一四日及び一五日であるのに対し、原告が法定数の株式を取得した日は昭和五九年一一月一五日であるから、原告は持株要件を充足していないものという外ない。

また、被告が原告の提案に係る会議の目的たる事項(議題)を本件株主総会の議題としなかったことは、当事者間に争いがないが、本件決議自体に何らの瑕疵もない以上、仮に被告の右措置が商法二三二条ノ二第一項の規定に違反するとしても、過料の制裁(同法四九八条一項一六号ノ二)があるのは格別、右違法は本件決議自体の取消事由にはならないものと考える。

二、よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高柳輝雄)

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